カラスビシャク(№296)

 サトイモ科の植物の花は、ほとんどが筒状の仏炎苞と呼ばれる苞の中に納まっています。そして、受粉のため昆虫を閉じ込め殺してしまう構造を持ったりしています。ところが、これらサトイモ科の中でもハンゲ属のカラスビシャクは意外に穏健派といえそうな受粉様式をとります。
 花粉の媒介昆虫を閉じ込めるのは雌雄異株の仲間です。このことは既にマムシグサ(№.185 )で紹介しましたが、雄花の仏炎苞には花粉を付けた媒介昆虫の出口がありますが、雌花には媒介昆虫の出口が無く、仏炎苞の内部で死に絶えることになります。
 一方、カラスビシャクは雌雄同株で、仏炎苞の中の付属体(花が集合して付着している器官)の上部に雄花が、下部に雌花が集合しています。同一の花の中に雌花と雄花が存在しますが、自家受粉を避けるため雌性先熟(雌花が先に開花し、受粉完了後に雄花が開花する)の方法をとっています。また、訪花昆虫の仏炎苞への出入りは自由なようです。さらに、雌花の付いている付属体の背部は仏炎苞と癒合しているためこの部分で仏炎苞が細くなっています。
 このカラスビシャクの葉は、1本の葉柄に3小葉が付きますが若い株では1枚の場合もあります。葉柄の地際部や葉の基部に直径3~5mmの球をつけることがありますがこれはムカゴで、地上に落下し発芽します。種子以外にもムカゴでも繁殖するわけです。
 カラスビシャクは至る所に生えている雑草ですが、この塊茎(地下茎が球状になったもの)は半夏(ハンゲ)と呼ばれる生薬で、鎮吐作用があり漢方薬として利用されます。カラスビシャクが生える頃(7月2日頃)を半夏生(ハンゲショウ)と呼ぶのはこの雑草の開花時期からきているようです。また、畑の草引きをしながらカラスビシャクの塊茎を集め、これを売ることで小遣いを稼いだことから別名ヘソクリとも呼ばれるそうです。
 ハンゲショウ(№.120)と呼ばれる植物もありますが、これはカラスビシャクとは別物で、ハンゲショウの頃(7月2日頃)に開花するドクダミ科の仲間のことです。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲カラスビシャクの花(仏炎苞)と複葉(3小葉)
▲カラスビシャクの花(上:雄花、下:雌花)
▲カラスビシャクのムカゴと1枚の葉


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