セミヤドリガ(№301)

  里山の杉林に近づくと、ヒグラシの声が聞こえる頃となりました。このヒグラシを手で捕まえたKさん、セミの腹に白い糸くずのようなものが付いているのを見つけました。 これは生態的に大変珍しい、セミに寄生するセミヤドリガと呼ばれる肉食蛾の幼虫です。
 セミ、特にヒグラシのメス成虫に好んで寄生します。卵は樹幹に産卵され、近くへ寄ってきたセミの成虫に孵化幼虫がとりつき、セミの体にくっついて寄生(外部寄生)するそうです。この幼虫の口は、噛んだり吸ったりできる構造ではないようで、どのようにしてセミの体液を吸っているのかも謎だそうです。セミの腹部に糸を張り、その糸を頼りに振り落とされることも無く動きまわっているようです。セミそのものの寿命は長くないため、セミヤドリガの成長も早く、寄生して2週間程度でセミの体を離れ、樹幹などに繭を作り蛹になります。成虫は、開翅長20mm程度の暗褐色の小蛾ですが、成虫は殆どがメスで、メスだけで増え続けている(処女生殖)ようです。また、この蛾の口は退化しており餌はとらないようで、セミに寄生している間の吸汁体液だけがこの蛾のすべてのエネルギーになるようです。また面白いことに、セミヤドリガの寄生でヒグラシが死ぬようなことも無いそうです。 比較的発生が多いにもかかわらず、謎に包まれた一生を送るセミヤドリガ、興味を持って観察を進めたいものです。ヒグラシ成虫の飼育そのものが難しく、Kさんの捕らえたヒグラシはまもなく死んでしまい、セミヤドリガも蛹にはなれませんでした。
(*画像をクリックすると拡大されます)
▲ヒグラシに寄生したセミヤドリガ幼虫(腹部の白いウジ状の幼虫)
▲腹部に寄生しているセミヤドリガ幼虫(腹側からみたもの)


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